大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和50年(ラ)428号 決定 1975年10月31日

抗告人

羽石好文

右代理人

檜山雄護

相手方

有限会社城南商事

右代表者

関戸喜八郎

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由

別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

本件抗告の理由は、要するに本件転付命令の対象となつた各供託金の取戻請求権は、いずれもその性質上その範囲のみならずその存否が不確定の債権であつて被転付適格を有しないものというべきであるから、同各取戻請求権についてなした本件転付命令は違法であるというのである。

なるほど、右の各供託金は、いわゆる訴訟上の保証として強制執行債権者(被供託者)について生ずるべき損害賠償請求権を担保する性質を有するものであり、したがつて、右各供託金の取戻請求権は、右の損害賠償請求権の存在ないし範囲が確定しない限り、行使するにあたつての権利内容は確定しないが、右各供託金の取戻請求権そのものは、供託と同時に発生し、被担保債権たる損害賠償請求権が確定行使されるまでは終始右の各供託金の額と同一の券面額を維持して存続するものというべきであつて、同各取戻請求権につき転付命令が発せられた場合には、右券面額について転付の効力を生ずるものであることは一般の金銭債権と少しも異るところはなく、ただ、転付せられた同各取戻請求権は依然担保権者の優先権に服すべきものといわざるえないから、転付を受けた債権者としては、将来担保権者に対する優先弁済の結果同各取戻請求権の全部または一部を失う危険を負担する点においてその結果を異にするにすぎないものといわなければならない(しかも、本件記録によれば、前記各供託金の担保権者(被供託者)は本件転付を受けた債権者と同一人であることが認められるから、同債権者としては、本件転付命令の申請により、右の各供託金について有する担保権をあらかじめ放棄したか、あるいはまた少くとも将来その担保権の行使を選択する意思を放棄しているものと推測され、このことからすれば、前記各供託金の取戻請求権については結局においてその券面額に変更をきたすこともないという事情がうかがわれる。)。

したがつて、右各供託金の取戻請求権は、確定した券面額を有する債権として被転付適格を有すをものといわざるをえないから、この各供託金の取戻請求権につき転付命令を発すべきものとした原裁判は相当であつて、本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(安倍正三 岡垣学 唐松寛)

〔抗告の趣旨〕

一、原命令中、第三項を取消す。

二、相手方の本件転付命令申請を却下する。

との裁判を求める。

〔抗告の理由〕

一、不動産競売手続停止決定の保証としての供託金は、該停止決定に基づく執行停止処分により執行債権者である被供託者が蒙ることあるべき損害を担保することを目的とする趣旨の金員である。しかしおよそ執行停止処分により被供託者について、当然に損害賠償請求権が発生することは限らないばかりでなく、それが発生した場合でも損害額が供託金額に満たない場合も当然あり得べき筋合である。

二、しかのみならず、前記供託金は当該停止決定の効力を維持する要件としての金員の性質を有するものであるから、該停止決定が取消され、またはその他の事由によりその効力を失なうに至らない限りその存在が維持せらるべき筋合であると解することが執行停止制度の目的に照し相当であるといわなければならない。

三、以上の理由により、不動産競売手続停止決定の保証としての供託金の取戻請求権は、当該停止決定が取消されまたはその他の事由によりその効力を失なうに至るまでは、差押えた債権の券面額で無条件に弁済の効力を生ぜしめることを目的とする転付命令についてはその被転付適格が否定せられるべきである。それゆえに、右供託金取戻請求権につき転付命令を発するためには当該取戻請求権につき被転付適格を肯定できる場合に始めてこれをすることができるというべきである。しかるに、本件転付命令は、債務者の有する供託金取戻請求権について被転付適格がないにもかかわらず、これを発せられた違法がある。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例